沖縄・アニメ・見る

 何年前のことだったか忘れてしまったが、いとこがあるアニメを見せてくれた。いまでも目に焼きついてゐる場面がある。ある生徒が階段から落ち、踊り場にころがってゐた傘の先(石突き)に首を突き刺して死んでしまふのである。鋭利な尖端から血がどくどく流れ、その溢れ様に小学生だった私はおぢけついてしまった。私は何も言はずに部屋を出た。気まづくなって、せめてもの笑ひを取らうとまるで吹雪にあらがってでもゐるかのやうに、ひらいた折りたたみ傘を前に差し向けて戾っていった。部屋から笑ひがもれた。
 結局そのアニメは見ずじまひにゐる。そのことを度たび思ひ出す機会があって、あれはなんだったのだらうと気になってゐた。
 また別のシーンが思ひ出された。学校の屋上で下方をまっすぐに俯瞰してゐる、眼帯をつけたひとりの少女。「眼帯 アニメ」でしらべると出てくるのは中二病でも恋がしたいで、私の印象とはちがふやうだった。
 実のところ、これは「Another」のことである。原作は綾辻行人の小説で、私は中学時代に東川篤哉東野圭吾をたくさん読んで推理小説から離れていったから、まったく頭に浮かばなかった。ベネッセだかどこかの読書特集の小册子に、繰返し読んでも謎は深まるばかりだと、ある女優がAnotherを挙げて言ってゐたことが書いてあった。ほかにはWikipediaに書いてある、綾辻行人ファミコンをすすめられたのがきっかけで宮部みゆきはゲームに夢中になった、といふ情報しか知らなかった。
 制作会社はP.A.WORKSである。私はこの会社の作品を見るのは白い砂のアクアトープが初めてだと思ってゐたのだが、さうではなかった。しらべるとウマ娘P.A.WORKSの制作である。

 白い砂のアクアトープは舞台が沖縄である。私はアニメにうといので知らなかったのだが、どうやら沖縄が舞台のアニメは一定してあるものらしい。
 同じP.A.WORKSによる、2018年に放送された「色づく世界の明日から」がTVerで配信されてゐたので第一話を見てみたら、アクアトープとおんなじカンジなのにはおどろいた。
 白い砂のアクアトープの第一話は、女の子がアイドルをやめて衝動的に沖縄に行ってしまひ、見知らぬ土地の水族館で水槽から魚群が飛び出すまぼろしを見、そこでアルバイトを始めることになるといふ筋である。
 一方、色づく世界の明日からの第一話は、色盲の女の子が望んでもゐないのに魔法使ひの祖母によって六十年前の2018年へと送られてしまひ、なんやかやあってなくしものを探して男の子を追ふと、ベンチに坐ったその子の描いてゐる絵が飛び出すといふ筋である。
 つまり、どちらも第一話に〈見知らぬ土地に行く〉と〈まぼろしを見る〉といふ、ふたつの要素があるのである。なにかあるなと思ってしらべたところ、監督とシリーズ構成を担当する人が両方の作品において同じことがわかった。キャラクター造形も同じなので展開もまったく同じなのではないかと思ったが、さすがにそれはちがふやうである。
 今年はもうひとつ沖縄が舞台のアニメがある。短篇アニメのでーじミーツガールである。こちらもTVerにあるので見てみたら、沖縄方言をしゃべる女の子の声に聴きおぼえがあった。もしやと思ってしらべたところ、その声優がアクアトープにも出てゐたことがわかって納得した。沖縄方言が得意なために沖縄が舞台だとよく起用される声優なのかもしれない。

 ところで沖縄ではTVをつけてもアニメをあまり見ることができない。 
 たとへば今年の七月に放送されたアニメの一覧をしらべると(全国テレビアニメ番組表 - 九州・沖縄|アニメテラス)、深夜に週あたり7作品流れてゐたことがわかる(そのうちのひとつは名探偵コナン。米国でもコナンは深夜に流れてゐるさうである)。深夜以外の時間帯だとアンパンマンプリキュアドラえもんといった子供向けのものが9作品流れてゐた。つまり沖縄では一週間に16作品しか流れなかったのである。

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 これは少い。と言っても私はアニメを大して見ないし、深夜に起きてまで見るつもりはないから別に困らない。しかしさうでない人はゐて、高校の修学旅行で沖縄へ行った際、一緒の部屋に泊った松木(假名)はアニメが見られないのでベッドでのたうちまはってゐた。たまにセルアニメのお米のCMが流れるとそれをぢっと眺めてお米お米などと呟いてゐたが、はたして冗談なのかわからない。TVで見られないのならインターネットで見ればよささうなものだが、あいにく宿舍のインターネット回線は混雑してゐて、なめくぢ並の速度だった。暇つぶしにうってつけなトランプカードさへ誰も持ってこなかったので、我われはTVで日テレの世界まる見え!みたいな番組を見てしだいに飽きていった。洗剤泡で家中を満す実験などをしてゐた。
 この松木は化学の実験でもずっとアニメの話をしてゐて、私は当時アニメをほぼ見てゐなかったので、知ったかぶりをして話を合せてゐた。学戦都市アスタリスクを繰返し視聴してせりふを覚えたと言ひ、私も子供の頃はドラえもんの第一話「ゆめの町ノビタランド」のせりふをまるまる覚えたことがあるが、さすがにいまではそんな無茶な真似はしない。その後かれが四畳半神話大系を見た時は、せりふが長過ぎるからおぼえられないぢゃないかなどと言ってゐた。私の知ったかぶりを見抜いたのか、かれは私が見たことのある四畳半神話大系の話ばかり私に振った。