ことしもプリキュアをみる(ひろがるスカイ!プリキュア)

よかった回

 今年度はけっこうおもしろいエピソードが豊富で、去年おととしより充実しておりました。こんかいも、それぞれについて、いちいち個人的な感想を述べてゆきたいとおもいます。

第5話「 手と手をつないで!私たちの新しい技! 」

 脚本がよかった。シリーズ構成の金月龍之介さんです。いままでの傾向から、正直、金月さんの脚本は不安でしたが、これはうまかった。

 コメディが生き生きとしていました。痩せたカバトンの顔が絶妙にこわい。怪物にもユーモアがあり、建物から建物へと跳びうつるくだりや、やっぱその言葉しかないと告白するところは初代プリキュアのようでいいですね。でも、なんか良質の百合を見たような気がする後味。この友人どうしの描写においては、この作品全体で、つねに露骨に違和をかんじました。

【個人的ベスト】第9話「 勇気の翼、飛べキュアウィング!! 」

 最終的によいと思える話でした。
 意外や意外、キュアウィングは、わたしにかなり好ましいキャラクタかもしれません。じぶんのなしとげたことに実感がわかず、ぽっかりとあいた口。それが即物的な実感としてよくあらわれていました。

 見た当初は根拠のなく、もしかするとエルちゃんもいつかはプリキュアに?! と想像しました。

第14話「 スカイランドへ!憧れのあの人との再会 」

 直接関係してのことではありませんが、赤ちゃんものだとおもっていたら、当時放映されていたガンダムの「水星の魔女」を思いだしたりしました。
 いちだんとヒーローヒーローしています。

【個人的ベスト】第18話「 アゲアゲ!最強の保育士 キュアバタフライ!! 」

 ずっとこういうのが見たかった気がします。

 冒頭から戦闘。すこしめずらしい気がする。
 アゲハさんが見習い保育士として、子供に接するのがたのしいと感じている。意外でもあり、納得もします。そして園児にたいして、ヒーローとはなにかを身を持って示せたこと。いままでのプリキュアとちがって、アゲハさんはなるべくしてなったプリキュアだと感じます。

 プリキュアの世界から、実際の対象年齢でありそうな園児を描くこころみは、園児との手紙のやりとりもふくめてよかったとおもいます。各キャラの動きもうまく取り入れて、なぜかヒーローというテーマに主眼を置かず、ましろとソラのともだち以上のような関係を強調する脚本が多いなかで、うまい脚本でした。
 ただ戦闘がながかったかな。そして最後はなんでやねんですが。
 キュアバタフライはおめかししてて、かわいかったです。

第19話「 あげはとツバサ、カラフルにアゲてこ! 」

 地味ながらも、各キャラの特徴をしっかりつかんで活かした脚本です。
 作画も安定していて、なんでだろうと不思議だったが、新アイテム登場回でした。ランボーグの造形も印象に残ります。(とおもいましたが、カバトンの電車のほうが印象深かったりして…… 正直、いまの敵キャラもカバトンよりは印象がうすく、バッタというのにもはじめて気づきました。)

 やはり、プリキュアたちを主眼にしてしまうなか、今期はエルちゃんをいかに脚本に組みこむかというのが大事です。

 その点、今回はエルちゃんも、エルちゃんなりの活躍をしています。脚本の井上美緒さんは子育て経験者ではないか? そう思い、しらべたところ、Twitterでお子さんを保育園に通わせている旨を述べていました。

 ところでど、放映当時は梅雨でしたが、ひろプリではしばらく晴れの日がつづいておりました。主人公がソラ・ハレワタールだからでしょうか?

第22話「 バッタモンダー最後の秘策! 」

 なんとなく虫の予感をかんじ、敬遠して当日には見ていませんでしたが、はっきりとした鬱展開でした。おもしろいといえばおもしろいのかもしれませんが、デパプリとくらべると露骨でやりすぎだとおもいます。

【個人的ベスト】第25話「 ワクワク!プリンセス、動物園に行く! 」

 「エルちゃんをいかに脚本に組みこむかというのが大事」と書きましたが、この回はまたエルちゃんにしっかりと見どころをあたえています。

 前半は動物園で、カピバラ・キリン・シマウマ・ライオンと、子供が対象であるならば、こういうたのしい教養要素は必然と考えるだけに、親子でおもしろく見られる動物たちと諸説明があります。後半で新しいアンダーグ帝国の手先が登場、これもかなり信念をまっすぐ持った好感あるキャラです。

 また作画監督のおかげか、作画は鼻梁を三日月型にしゅっと描いた顔になって、なかなかよかった。

 ふりかえってみると、今回もエルちゃんの行動に焦点があたっています。子供を理解した大人の仕事かと思いつつ、EDを見ると、脚本は井上美緒さん。納得しました。プリキュアを大人のものだけにせず、子供をも考慮するには、こういう寄り添いの視点がまったくもって必要不可欠なのだとおもいます。

第26話「 テイクオフ!飛行機でつながる想い 」

 海外に居住するましろさんの両親が、来日する。それに合せて展開するストーリーに、加えて、親子関係を際立たすことができればよかったのですが、最後は駈け足に、サッサと対面の模様が済んでしまいました。惜しいつくりですが、悪くはありません。
 戦闘でツバサくんが、解法をみつけるように考え抜くシーンが印象的でした。

第27話「 ミラーパッドでワクワクレッスン!? 」

 冒頭の会話はそれぞれのキャラの特徴があらわれていて、すぐに巧みな脚本だと気がつきました。

 全員に見せ場を与える構成の妙があります。ストーリーに関らない間隙の回ですが、ミラーパッドに吸い込まれるという、これから自由な設定をしますよという前提を明らかにしながら、その活用の仕方は多少強引ですが、今期のソラーましろ、あげはーツバサの関係を強調させていました。前者は以前にも露骨に示されていましたが、後者については今作でようやく私も気づいたほどです。
 そしてエルちゃんとおばあちゃんにもちょっとした見せ場があり、しかも4人のわざもすべて見せてくれて、よく気を配っています。

 さぞかしキャラクターをうまく捉えられるひとだと思い、だれだ、だれだと率先してEDを見たら、前作デパプリにひきつづいて、伊藤睦美さんでした。

【個人的ベスト】第29話「 ソラと、忘れられたぬいぐるみ 」

 さすがに秀作です。この話は見事で、今期の中でも上位に入ります。

 予告の印象のままホラーテイストかと思いきや、意外な方向に展開します。
 キャラの性格もぶれておらず、しかもたいへん意欲的な演出で、つたない作画を優に補完するだけの力を持っていました。敵の攻撃もこの三年間見てきたなかでいちばん斬新であり、それにたくみな演出が拍車をかけています。

 もう一歩踏みこめば名作の域に達したのではないかと思いましたが、時間の制約もあり、それでも十分秀作でした。

第30話「 ひろがる海!ビーチパラダイス! 」

 良作画&良脚本です。
 夏を満喫するだけの話ですが、おもしろい。作画できっちりマンガ・アニメ表現を使っていて、しかも崩れません。プロです。

 小ネタとしては、映画東映のOPロゴを模した切替りカットが登場します。
 脚本でも、カナヅチの主人公を設定することで、ただ遊泳するだけでない、描写の幅をひろげています。そして戦闘。海上での戦闘もめずらしく、敵のかたちも特徴も、海に合致しています。

【個人的ベスト】第31話「 新たな脅威! エルちゃんを取り戻せ! 」

 エルちゃんが!!!!回。

 今回はせめています。メインストーリーにつながる回といえども、前半はちゃんと日常やってます。エルちゃんぷち反抗期、からの写真館。その間隙に、さらばミノトンがあるのですが、ミノトンと人間の関わりも小ネタながら掘り下げる。なんだか退場するミノトンが惜しいような気がします。そして写真館のまさかの衣装(笑)。ここがいちばんおもしろい。どのプリキュアが好きー?と言われて、エルちゃんがなんと答えるのかドキドキいたしました(笑)。せりふがよく描けている脚本です。

 しかし後半になると、なぞのシン敵キャラが登場し、エルちゃんも奪われる。通常であれば、前半と後半のギャップにひえーとなりますが、まったく違和感がない。メリハリがつきながら、シン敵の展開にわくわくします。ミノトンと同じくらい、いやそれ以上に魅力的ですらあり、それも、前半の日常があるからこそ、エルちゃんとプリキュアたちの関係がいっそう意識させられました。

 秀作ですね。どこか大人向けの作品に変貌してしまったように、プリキュアうしの思いも曲も荘厳で、さながらハリーポッター(?)でした。

 と思ったら、?!?!?!?!?!?!?!おい嘘だろ!?!?!?!?まじかよ?!?!?!?!?!?展開?!!!!!!???おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!
 飛ぶぞ!

【個人的ベスト】第35話「 助っ人ソラ!エースとヒーロー 」

 野球は、よく知りません。高校のころにやって、それっきりです。阪神道頓堀も、巨人原もわかりません。

 この回は中学の女子野球を舞台にした快作です。脚本は井上美緒さん。
 メインは試合ではなく、この脚本家らしく、人間の機微に焦点が当っています。たまかな――ピッチャーの四宮たまきと、キャッチャーの大木かなめのふたりの軸(このふたりに、わたしは初代の影を重ねてしまいました)。

 たまきが肘を怪我している――しかも手術が必要――それはスポーツものにはよく見られる設定ですが、プリキュアと掛け合せることで、今回、とあるテーマにプリキュア特有の説得力をもたらしているとおもいました。主人公のソラも、登場時は運動万能、ヒーロー志望のちょっぴりへんな子だったのですが、今回は相似的な面があるたまきに対して、その説得力を担っています。

 出だしのすこししめった空気から、良作の思いが喚起され、爽快感あるしめくくりも、わたしは好きでした。今期いちばんの快作かもしれないという、いつもの大言壮語すらいいたくなります。

【個人的ベスト】第36話「 あげは、最強の保育士失格!? 」

 通じ合う心。

 さまざまな場所を転々としてきて、幼い頃から固定した友人がいません。しかしそれで問題ないとおもっていますし、いまに満足してもいます。

 この回は保育園のお話のつづきとして、あげはさんの感情が流露していました。脚本は伊藤睦美さん。
 園児たちのいきいきとした感情のはざまで、突如、引越しに直面してとまどう男児。その、前回登場したたけるくんの引継ぎかたも自然であれば、あげはさんの離ればなれになった姉妹のことも自然に絡ませて展開する物語は、対話によってのみしか解決し得ませんでした。
 その対話における演出が、まず巧みだった。あの重ね合った演出シーンは、実際に見てほしいほどです。

 そして少年こと、つばさくんの存在を活かしながら、制作側によってさらなる飛躍がなしとげられたようにおもいます。戦闘の作画の秀逸さは、制作の本気をうかがわせるものでした。

 最後の、へんしんしたバタフライが起こす特異なシーンも、いままでのプリキュアには見られなかった、まれにみる別離ではないでしょうか? まるであらたな邂逅の予感でもあるような……

第37話「 ふたりは仲良し♡ 思い出の木! 」

 秋のいなか。

 今回は、郷愁という言葉がふさわしいとおもいました。
 脚本は加藤還一さん(「テイクオフ!飛行機でつながる想い」の回など)。キャラクターや状況の描写に、現実から誇張をくわえることで、その様子がよく伝えられることがありますが、これは全体的に控え目で、一見穏当でした。しかし、むしろ本当に自然な流れがつくりだせて、静謐な完成度ともいうべきものがありました。

 和気あいあいとしているのを見るのは、ごく自然の仲のよさがあらわれていて好きです。今回は、特にその空気感がうまくかもしだせていました。
 そのあいまに、ごく自然に、ましろとあげはのなれそめが探索という仕方ではさまれる。そのなれそめが、ちいさな年齢に違和感のない、自然な郷愁としてよみがえってくる。しかもその郷愁を、戦闘中にも活かしていました。自然なようでいて、じつに巧みだとおもいます。

 五人の人間性も取りこぼさなければ、書くべきところはしっかり書く。完成度の高さは随一かもしれません。

 ちなみに、冒頭をよくみると、ましろさんは手首にシュシュをつけているのがわかります。

第44話「 大きなプリンセスと伝説のプリキュア

 けっこう重要なはなしで、金月氏のメリハリのあるシナリオ展開のうまさがあらわれています。予告をみて来週の展開が気になりました。

 しかし、実際のメインストーリーのこの後の展開としては、平坦で、単調的なところも多く、端緒として興味をひかれたにすぎません。

あとがき

 女児むけといわれるアニメーションで、今作は慣行を破ったと、放映まえから話題になっていました。それは、主人公らをいままで少女に固定した暗黙の了解からの転換、具体的には少年の登場によって、非難・歓迎ともども喚起されました。

 わたしとしては最初、静観の立場にあり、見終えても、なにひとつプリキュアの世界から逸脱することのないと感じたのみです。むしろ少年がじつは鳥の変身だと、制作側の保身さえ邪推されました。

 しかし反対派の憤懣は、ちょうど身近にいた女性の意見、インターネットの意見を耳に・目にしても、逆鱗に触れたと形容したくなるほどのものばかりです。

 幼児や児童が見ると仮定すれば、ナンセンスにしか思われない、それこそ大人のエゴまるだしの、といいたくなったほどで、その子らの親がみるとしても、大きな問題はないはず。特に断定はできぬ勝手な印象づけでは、幼児から見つづけてそのまま大人に育ったファンの、急激な変化について行けぬ困惑といったような……

 

 さて、今作のメインストーリーについては、終盤においても平板な、というほかに語ることはありません。タイトルのひろがるスカイに沿っているのかどうか、よくわからない内容を連続で見、さすがに倦怠に徒労するようでした。

 かえって、各数話にしぼったエピソードのほうが見がい・語りがいのある昨年・一昨年と変りなく、その水準はむしろひときわ高くなりました。それぞれに注目していえば、よくできています。

 

 当初の期待としては、ひろがるスカイとは、要するに「HeroGirl」と「ひろがる世界」の語呂であり、つまり子供たちの将来を肯定的にとらえることのメタファではないか、そして、赤ん坊のエルちゃんを中心に据え、この一年を通してエルちゃんの成長を描くのではないか、とおもいました。

 しかしその予想は、結果として的外れとなりました。
 各エピソードは将来を示唆していますが、メインストーリーをつうじては、ただのヒーローアニメ展開をなぞる印象です。主人公の、ヒーローになりたいという特異的な思いにも説得されたというためしはありません。
 また、幼児のエルちゃんも、みずから立脚するかたちで即席的に成長し、内面はそのままで大幅な成長はえがかれないままです。せっかくへんしんして大きくなっても、その形態が周囲との会話を誘発するふうにはならず、ただ戦闘用にひっぱりだされるだけであったのはもったいなくありました。

 

 また、金月氏の担当するキャラクター描写においては、特にソラとましろの関係は大人の視聴者のこちらがまっかになるような、現実からは疎外されたぎこちなさにあったとおもいます。形容のしかたによっては、友人以上の関係に思えるもので、過剰だとつねにかんじました。
 あげはとツバサにも、なにかつながりのあるような描きかたをしていましたが、具体的にどのような関係かは明示されず、主人公の影に埋没していたようにおもいます。

 

 結果としては今作も一長一短あり、初代のように、全体が確固とした構成で、キャラクターの内面や外面をリアリティを込めてかくというふうにはいたらず、そこはいつも通りです。

 むしろ初代との差のつけ方において、そういった手法が取られており、飽きられずに済んでいるといったほうがただしく、わたしとしては物足りなくはありますが、仕方のないことです。そもそも、こういった意見を提出することがいったいどれだけ有効であるのか、読者としてはそれこそ《幼児や児童が見ると仮定すれば、ナンセンスにしか思われない、それこそ大人のエゴまるだしの、といいたくなった》でしょうから……

 

 さて、来期の「わんだふるぷりきゅあ!」ですが、わたしとしては見たい人がみればいいという投げやりさで視聴を逡巡しています。この3年間プリキュアをみて、もう批評する役割は満足した気分もあり、読まねばならぬ本をまえにしてスゴスゴと引き下がるといった言いわけもあります。

 なにより、プリキュアにたいして偏見がそがれたことが重要であり、見ようによってはプリキュアアンパンマンも、大人向けのエンターテインメントをはるかに凌駕する内容ですから、莫迦にしてはいけないということを了解できた成果をまえに、ひきつづき古典や読みのこしの読書にもどるつもりです。