小説の勉強

 二〇二三年一月、佐藤厚志に芥川賞が授与された。かれはインタヴューで、大江健三郎の文学論『新しい文学のために』が英文科の課題として出されたことが小説執筆の契機としつつ、しかし実際に大江の小説を読むことがいちばん小説を書くうえで参考になったと語っている。大江は卓越した作家だった。
 小説指南に虎の巻はない、といわれると、困るだろうか? 森鷗外は「追儺」という短篇小説で《小説といふものは何をどんな風に書いても好いものだ》と書いたが、そういう投げ出しかたは初心者にとって困る。
 そして、困惑の時期は私にもあった。上手な文章を書きたいと中学高校生の頃にのぞんで、谷崎、井上、丸谷と、『文章読本』を立てつづけに読んだ。残された三島『文章読本』も、つい先達て読了したばかり。
 しかしこのような『文章読本』をひたすら読んでも、申しあげられるのは「あまり役に立たない」ということである。小説を書きたいなら、小説を読み、実践する方が何倍も得られる。実際これらの『文章読本』は、一般向けと銘打ちながら、どこをどうして、中身は高度な技術の求められる。たとえば、丸谷才一松浦寿輝が群像に書いた通り《英米系の教養に偏し》ている。三島由紀夫文章読本は、文飾に主眼をおいて、内容にこだわりがない。
 ということでムセキニンなようだが、あらためて、小説指南に虎の巻はない! どう書けばいいかわからないで困る小説初心者には、口を酸っぱくして、たくさん読め、学べ! と言いたいのだ。