2021年度に読んだ秀作・凡作・駄作大賞

 2021年度に私が触れた書籍で秀作・凡作・駄作だと思ったものを四つづつ挙げる。なほその発表時期は2021年度に限らず、また有名なものを挙げることもある。当り前だが、これは個人的な意見であると念のために言っておかう。

 

秀作大賞

一等賞 富永健一社会学講義』中公新書

 小谷野敦富永健一を偉い社会学者だと書いてゐて、読んで確かにその通りだと思った。全体的によくまとまってゐて客観的に書かれてをり、説明の仕方が丁寧である。社会学者を名乗る古市や上野千鶴子とは歴然とした差がある。

二等賞 松本清張「或る「小倉日記」伝」

 「おぐらにっき」ではなく「こくらにっき」です。それはともかく、概してつまらない芥川賞の中でもこれは読んでゐておもしろい。小谷野が高い偏差値を与へてゐるコンビニ人間もおもしろかったが、私はこちらの方がよりおもしろかった。

三等賞 池内正幸『ひとのことばの起源と進化』開拓社

 入門書なのでわかりやすく書かれてゐた。言語学は文系ではなく理系の自然科学なのである。エヴェレットのピダハン(ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観)の欠点も指摘してゐて、YouTubeのゆる言語学ラジオで紹介してゐる内容が怪しいことがわかる。

四等賞 村上龍「公園にて」

 公園にては短篇集『空港にて』(文春文庫)の中の一篇。『空港にて』は女が男と知り合ふ似た短篇が続き、よくない。公園にてだけが唯一他者目線のママ友の話で、疎外感が感じられた。

 

凡作大賞

一等賞 業田良家『百人物語』竹書房文庫

 感動系にするつもりだったのか、最初はしがないギター引きが歌ふのだが、なにしろ歌詞だけではどんな曲か想像できないから困る。しかしつまらないのでだんだんとコメディ漫画路線に転向していくのだが、おもしろくはない。

二等賞 吉田真百合『ライカの星』ハルタコミックス

 絵がかはいいけど、それだけといふ印象。

三等賞 原作・綾辻行人、作画・佐々木倫子『月館の殺人』IKKI COMICS

 漫画の顔の感情の変化がすぐ泣いたり青ざめたりと極端だし、コマとコマとのつながりが下手である。ミステリの方もそして誰もいなくなったを思ひ出した。

四等賞 舞城王太郎好き好き大好き超愛してる。講談社文庫

 恋愛経験のない人からしたらよくわからない話で、冒頭の《愛は祈りだ。》は祈りといふと宗教的で、《僕は世界中の全ての人たちが好きだ。》といふのは博愛で、なにやらキリスト教めいてゐる。しかし全体としては相手を喪失する・した恋愛の話なので、博愛と恋愛とを混同してしまってゐる。私の意見は黒井千次の《分けられた話の一つ一つは面白いのに、全体がいかなる構造を持つかの構成意図が遂に掴めなかった。》といふ芥川賞選評に近い。

 

駄作大賞

一等賞 青木潤太朗『インスタント・マギ』KADOKAWA

 知り合ひに薦められて読んだが、冒頭から渋柿が甘いと書いてあって駄目だと思ってゐたら、最後まで通読して本当に駄目だった(後半から飛ばし読み)。男の煩悩の塊を形にしたみたいな少女がヒロインで、題名のインスタント・マギといふ魔法は活躍してゐないし、序盤の人物はすぐ輪姦されたり奴隷同然になったりして何のために出てきたのかわからず、さういふ一度きりの人物ばかり登場させて下手である。調べたらこれはリョナ好き向けに書かれた小説らしく、私はリョナのどこがおもしろいのか理解不能なので受けつけなかった。作者のTwitterを見た所この続篇が出るらしいのだが、分量が倍になったといふ。

二等賞 夏木広介『こんな国語辞典は使えない』洋泉社

 詳しくはこのブログ記事に書いた。

winesburg.hatenablog.com

三等賞 筒井康隆『誰にもわかるハイデガー河出文庫

 読めば筒井自身が《このへん、じつは僕よくわからないんです。》《このへんになるとますます、よくわからなくなってきます。》と語ってゐて誰にもわかるといふ題の惹句が嘘だとわかるし、サブタイの文学部唯野教授とは関係ない。本の半分を占める大澤真幸の解説もキリスト教にばかり依拠してゐて、はいはいハイデガーは宗教なんですねと思ふし、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』からアリストテレス詩学第二部の箇所を引っ張ってきて笑ひの解放的な力があるんだと説明するのに至っては、そもそも詩学第二部はエーコの創作で実在しないのだからアホらしい気分になる。

四等賞 小川榮太郎『作家の値うち 令和の超ブックガイド』飛鳥新社

 太宰ファンといふ名義のアマゾンレヴューを見て本屋で立ち読みした。君の膵臓をたべたいに胸をうたれたと書き82点を与へてゐて、大江健三郎の燃えあがる緑の木に-90点をつけてゐたので呆れた。零点ならまだしもマイナス点はこの大江の小説だけなので点数評価の基準がわからない。住野よるのほかには古井由吉を持ち上げてゐて、大江を下目に見る点も合せて松岡正剛と似てゐる。松岡は君の膵臓をたべたいを千夜千冊で取り上げたが、褒めてゐるといふよりは《そうではあるけれど、やっぱり住野はどこかで早く大林宣彦を見たほうがいい。》と暗に批判してゐるので取り上げるネタが尽きたんだらうといふ気がするし、町田康の『浄土』講談社文庫)の文庫解説も関係ないシオランをねぢ込んでゐて駄目だった。

1000ya.isis.ne.jp

 

隠れた良作大賞

阿久井真『猛禽ちゃん』裏少年サンデーコミックス

 偶然見つけたコメディ漫画だったがおもしろいし、主要な登場人物たちが軒並み人間の姿をした鳥であり、鳥であるヒロインと本物の人間とのラヴコメといふ設定もあまり見かけない気がする。連載はすでに終ってゐるが私はいままで知らなかった。この作家はマギのアシスタントをした経験があり、絵もうまく、現在は青のオーケストラといふ漫画を連載してゐる。

 

まとめ

 いろいろ俎上に載せた。毒舌はわざとするものだが、これは正直かつ率直に語ったつもりである。めったに読まない推理小説も今年度はドラマの相棒に熱中したせいでロートレック荘事件と横しぐれを読んだが、横しぐれの方がおもしろかったので私としてはそもそも叙述トリックがくだらないのだと思った。(横しぐれを取り上げなかったのは読み終へたのが2022年4月2日だから。)ただし東野圭吾の『超・殺人事件』にある「超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇)」は作中で叙述トリックだと明記してをり、好きである。