世間に通用してゐる旧字

 中学のころ私は井上ひさしの『東京セブンローズ』を読んで鹽だの臺所だのまるでちんぷんかんぷんだった。米原万里は書評で旧字がすらすら頭に入ると書いてゐたが、鹽を見て塩だと認知できる人は少いだらう。旧字は世間に浸透してゐない。
 しかしある程度は世間でも認知されてゐる。常用漢字表を見ながら、世間に認知されてゐさうな旧字を挙げてみたい。なほ旧字と新字のあひだで大きな異同がない漢字は取りあげない。(たとへば惡と悪、突と突など。)

 以上が、旧字でも割合よく見かける漢字ではなからうか。
 姓名であれば齊のほかに、旧字の澤や櫻などが使はれてゐるが、私が思ふに澤が沢の旧字だと認知してゐる人は少い。
 龍の認知度も高いがこれは謎である。芥川龍之介坂本龍馬はなぜか芥川竜之介坂本竜馬とは表記されず(司馬遼太郎の『竜馬がゆく』が有名なのにもかかはらず)、恐竜を恐龍とは書かない。だから竜と龍の双方がまったくの別字だと認識してゐる人がゐるぐらゐで、まへに龍の新字はなんでせうと問題をだしたら、その人は「襲」ととんちんかんな回答をしてゐた。